(2021年12月2日)2021年度 10代のシングルマザー復学支援 中間報告書

本中間報告書は、2021年3月にケネマ県事業地で開始した「10代のシングルマザー復学支援」の活動報告をまとめています。

本プログラムは、2022年3月末までに「50人の10代のシングルマザーが復学」することを目標に掲げ、2021年3月に活動を開始しました。2021年5月には100人の月額寄付サポーターを募集するマンスリーファンディングキャンペーン「若年妊娠により退学を強いられた女の子【あと50人】に人生を変えるチャンスを届ける【100人の月額寄付サポーター】を募集しています!」により、目標を上回る107名の方にお力添えいただき、2021年12月現在、目標人数の約半数の22名の復学が完了しております。

本報告書では、10代のシングルマザーを取巻く社会的スティグマ、法的課題の歴史と現状、支援条件や毎月のモニタリング内容、今後の活動計画等についてまとめています。

※NPO法人アラジが使用する写真は、NPO法人アラジが定めるチャイルドセーフガーディングポリシーに遵守し、書面にて写真撮影の許可および広報媒体への使用の許可を得ています。

 1.NPO法人アラジとは

NPO法人アラジ(正式名称:特定非営利活動法人Alazi Dream Project)は、西アフリカのシエラレオネ共和国で、教育を受け続けることが困難な最貧困家庭の子どもに、教育の機会を届ける活動をする国際協力NPOです。

2014年に代表理事の下里夢美(しもさとゆめみ)により任意団体として創設、2017年よりNPO法人化しました。事業スローガンとして「最も困難な状況に陥る子どもと貧困家庭へ私たちが、最初のチャンスを」を、ビジョンとして「誰もが夢へ向かって努力できる社会の実現へ」をそれぞれ掲げ、日本とシエラレオネ共和国で活動を行っています。4年間で延べ1,100人に教育と就労の機会を提供してきました。

NPO法人設立から5期目を迎えた現在では、常勤スタッフ(有給)1名、非常勤スタッフ(有給)3名、登録ボランティア約80名、月額寄付サポーター207名となり、多くの方々のご理解とご支援をいただきながら、活動を継続しています。

事業地シエラレオネでは現在、2つの事業地(首都フリータウン・ケネマ県)の事務所に、現地スタッフ3名が在籍しています。

 2.シエラレオネ共和国とは

西アフリカの西部に位置するシエラレオネ共和国は、18世紀に奴隷貿易の産地として発展、奴隷制から解放された黒人たちの移住地として、1808年にイギリスの植民地を得て、1961年にイギリスから独立しました。

現在の人口は約790.7万人(2020年,世界銀行)で、国土面積は71,740 km²です。首都は、奴隷解放の意味を込めてフリータウン(Freetown)と名付けられています。公用語は英語で、ティムニ族、メンデ族、フラニ族など、多数の民族の共通語としてのクリオ語は、国民の9割以上に使用されています。宗教の内訳は、イスラム教6割、キリスト教3割、その他の土着宗教が1割となっています。日本とは距離にして約14,000km離れており、航空時間は約30時間と、物理的に距離が遠く、心理的・経済的交流が非常に限られた地域となっています。

現在、シエラレオネ共和国は後発開発途上国(*1 LDC : Least Developed Country)47か国に属し、SDGs(Sustainable Development Goals = 持続可能な開発目標)達成年の2030年以降も、後発開発途上国に残り続けるだろうと予測されています。1991年から2002年までの長きに渡る政府軍と反政府軍(RUF)との内戦では、多くの死者や難民を生み出すと同時に経済・教育・行政など様々な面に甚大な負の影響を及ぼしました。2016年のエボラ禍、2018年の都市部の土砂災害(1,000名以上が死亡)等も、同国の経済発展に大きな影響を与えています。

*1 後発開発途上国(LDC:Least Developed Country)

 国連開発計画委員会(CDP)が認定した基準に基づき、国連経済社会理事会の審議を経て、国連総会の決議により認定された特に開発の遅れた国々。3年に一度LDCリストの見直しが行われる。規準は以下の通りである

(1)一人あたりGNI(3年間平均):1,018米ドル以下(2)HAI(Human Assets Index):人的資源開発の程度を表すためにCDPが設定した指標で、栄養不足人口の割合、5歳以下乳幼児死亡率、妊産婦死亡率、中等教育就学率、成人識字率を指標化したもの。(3)EVI(Economic Vulnerability Index):外的ショックからの経済的脆弱性を表すためにCDPが設定した指標。人口規模、地理的要素、経済構造、環境、貿易のショック、自然災害のショックから構成。(参考:外務省HP

 3.これまでの活動

現在NPO法人アラジでは「農村部小学校定額給付支援」「都市部奨学金給付支援」「10代のシングルマザー復学支援」の主に3つの支援事業を、首都フリータウン、ケネマ県、ポートロコ県の3つの事業地で実施しています。

シエラレオネ共和国において、子どもがより経済的に脆弱な状況に陥る要因としては、主に3つのパターンがあげられます。1つは事故・病気・災害等で子どもが両親を失っており、親戚宅で里子として過ごしている場合、次に、子どもの保護者が初等教育を完了していないひとり親世帯で頼れる親戚が不在の場合、最後に学校設備が不十分な農村部で生活している場合等が考えられます。生きるため、また、学校に通い続けるために、月100時間以上の過度な家事、農業、兄弟の育児、売り歩き、物乞い、最悪の場合にはセックスワーク等の児童労働に従事する場合があり、大きな社会問題となっています。

両親から明らかな虐待を受けている場合や、ストリートチルドレン、災害・緊急時の保護・サポートはより充実していますが、上記にあげた「家族と過ごす子どもの貧困」は目に見えにくく、義務教育課程(中学校3年生まで)において、留年や退学を繰り返す要因にもなり、解決がより困難です。

現在NPO法人アラジでは、そうした「家族と過ごす子どもの貧困」の諸問題の根本要因を改善するべく、上記に掲げた3つの支援事業と啓発活動を実施しています。それぞれの事業が、児童労働や子育てなど、様々な理由で教育を受けることが困難な子どもの家庭に、教育機会を提供し、長い目でみた教育の成果を目指すものです。

活動の実績として、奨学金給付支援事業においては教育費の補助により受益者の留年率0%を達成、また小学校定額給付支援においては、未認証の小学校への初期設備の整備を担当しこれまで1校を現地行政へ引き継ぎました。現在、430名の子どもが毎月NPO法人アラジのサポートを受けながら、学校に復学しています。

 中間報告(2021年3月~2021年10月)

アラジ現地スタッフと受益者家族

 1.事業概要

「10代のシングルマザー復学支援」は、若年妊娠によって、初等・中等教育を中退している10代のシングルマザーが、再び教育の機会を獲得し、経済的な自立や夢への実現を後押しすることを目的とした活動です。

手に入らない避妊具や性教育の知識不足、性暴力などの望まない妊娠により教育を受ける機会を失い、パートナーが経済責任を果たさない10代のシングルマザーの女の子が、再び学校で学べるよう、毎月定額(約2,200円)の奨学金給付支援を行っています。

復学した女の子が教育を受ける様子

ケネマ県の事業地を主な活動地域とし、2022年3月末までに、新たに50名の女の子が復学することを目標に、支援を進めてまいりました。

 2.10代のシングルマザーを取り巻く現状

女性にとって「出産」は、全世界共通で人生最大のリスクです。

また、若年妊娠は、SDGsのすべての目標達成を困難にする脅威であるとも言われています。

ヒアリングを受ける受益者と赤ちゃんの様子

時にシエラレオネは「世界一お産の危険な国」と揶揄されるほど、出産が女の子の命を脅かしている国の1つです。特に10代の女の子は骨盤が未発達であるため、出産時のリスクが通常よりも40~60%高く、10代の女の子の死亡要因のうち「出産」が最も高い割合を占めています。

10代の母親から生まれた赤ちゃんは、死産または出生直後に死亡する可能性が非常に高いことも問題です。特に農村部で女性が出産に挑む時、病院まで歩いて2・3時間という地域も珍しくなく、医療補助の乏しい環境下における出産では、母子ともに出産時の死亡率は高くなります。

また、無事に出産を終えたとしても、母親が初等・中等教育を完了していないシングルマザーとなる場合、多くは経済的に困窮したり、病気の予防知識や手段がないために、子どもがマラリアや下痢性疾患などの病気にかかり、5歳までに亡くなってしまうケースは珍しくありません。

このように非常にリスクが高い若年妊娠ですが、シエラレオネにおいて10代の女の子が妊娠にいたるまでには主に4つの理由があります。

1)レイプなどの性暴力

シエラレオネの10代の女の子の約5.6%が、同意のない性交渉を経験したことがあると答えています。シエラレオネの伝統文化の多くは女性差別的で、女性が男性に同意をとることは容易ではありません。


2)学校で性教育が提供されていない

教育現場で充分な性教育がなされていません。シエラレオネのほとんどの学校には保健室がなく、また教員免許をもつ先生は全体の75%、女性教員は男性教員の5分の1程度しかおらず、同意のない性交渉を経験した女の子のうち6.4%が、男性教員からの性被害にあったと報告されています。


(3)家庭での性教育がタブーとされている

文化的・宗教的背景から、未婚女性の性行為はタブーとされ、男女の性や性行為の話を家庭内ですることはありません。

(4)避妊具へのアクセスの難しさ

貧困家庭において、避妊具であるコンドーム(1つ30円~100円程度)を購入することは非常に困難です。(農村部の世帯月収は平均月5,000円程度)

参考:National strategy for the reduction of adolescent pregnancy and child marriage 2018-2022

3.若年層女子に関する4つの重要な法制度と法改正

(1)児童婚の撤廃 (2007年-

シエラレオネ政府は、2007年に児童婚に関する法改正を行いました。それまで女性の多くは、両親が決めた年上の男性と結婚するという書面を用いない「伝統的な結婚」が主流であり、2010年代には約5割の女の子が児童婚を経験したといわれています。農村部の家庭にとって、「早婚」は大きな経済効果をもたらすものとして考えられていたために、多くの女の子が児童婚を強いられてきました。

法改正により、児童婚は女性への権利侵害にあたるとされ、伝統的な結婚をする際には、男女双方が18歳以上であることが条件付けられました。(※しかし、この法律は双方の親の同意があれば16歳で結婚できることになっており、今後の法改正が課題となっています)

(2)自宅出産の違法化 (2010年-)

シエラレオネでは2010年まで、出産補助の適切なトレーニングを受けていない「伝統産婆」による自宅出産が主流であったため、新生児と妊婦の高い死亡率が続いていました。そこでシエラレオネ政府は、女性が医療施設で出産することを推進するため、妊婦と幼児の医療費を原則無料にし、自宅出産を違法とする法律を制定しました。医療施設にアクセスできる女性にとっては、熟練した助産師のもとで安全な出産が可能となりました。

しかし、貧困家庭や農村部に住む女性にとっては、医療施設にアクセスすることが難しく、政府に罰金を支払いながらも自宅出産を選択する女性が多くいます。自宅出産の違法化が施行された2010年以前から、シエラレオネの出生率は低下傾向にあります。(1人の女性が一生のあいだに産む子どもの数=合計特殊出生率は、2010年には5.2人、2019年には4.1人と低下傾向にあります。引用:THE WORLD BANK : birth rate)

(3)妊娠した女子の復学禁止令 (2015年-2019年

2015年にエボラ出血熱の感染拡大により学校機関が長期的に閉鎖することを余儀なくされたために、若年妊娠が大幅に増加しました。(前年比50%)そこでシエラレオネ政府は、2015年、妊娠中または出産女子生徒の通学を禁止する政策を実施しました。しかし、国際社会から、女子への多大なる権利侵害であるとバッシングを受け、2019年に撤廃されることとなりました。

若年妊娠をした女の子が地域でのいじめや陰口等の社会的スティグマの対象になるなど、復学禁止令の影響は、撤廃された現在でも妊娠・出産を経験した女の子が学校に戻ることを困難にしています。

”若年妊娠をすることは恥ずかしく愚かなこと” という負のイメージが浸透していることにより、鬱、自殺、自傷行為など、精神面での困難を抱えてしまう女の子も少なくありません。若年妊娠をした女の子の約8割が妊娠したことを後悔しており、10人に3人、29%の女生徒が妊娠により中退しているという現実があります。

(4)中絶禁止法 (1861年-)

シエラレオネでは1861年に制定された旧法により、現在でも「中絶」が禁止されています。 「望まない妊娠による中絶の合法化」を目指した「Safe Abortion Act 2015」が2015年に評決されましたが、人口妊娠中絶に反対する宗教評議会(IRCSL)に激しく拒否され、実際に施行されることはありませんでした。

現在の法では、約5.6%にも達する、性加害によって妊娠した女性たちでさえも「産まない」という選択をすることができません。また、本来中絶をすべき「妊娠の継続が難しい命の危険にさらされてる妊婦」でさえ、安全な中絶のできる医療機関に簡単にアクセスできないという現状があります。

 4.「10代のシングルマザー復学支援」現在の支援状況

復学のために必要な給付金額

支援プログラム概要について

プログラム実施人数:22名(2021年11月末現在)

受益者平均年齢:17歳(※約5割の受益者が最終学歴中学校2年生)

毎月の奨学金支給額:約2,200円(返済不要)※1円=0.011リオンで計算

進学支援金制度:受益者が中学校受験(NPSE)に合格し中学校に進級する場合、約3,300円を給付

緊急医療費補助制度:事故・病気などにより1,100円以上の医療費がかかる場合、支援契約期間内に一度だけ、5,500円まで給付

 5.支援条件・契約期間について

支援契約の様子

女の子が当法人との支援契約に至るまでには、女の子と赤ちゃん、そして赤ちゃんの養育者に課する様々な条件があります。50以上の候補者へのヒアリング項目と、 19の絶対条件 である 「赤ちゃんの父親と同居しておらず、経済的責任を果たしていないこと」 「最終学歴が中学校2年生までの10代のシングルマザーであること」「女の子と赤ちゃんの関係が良好であること」「赤ちゃんが生後7か月以上で、授乳が1日に3回以下になっていること」「家族が復学に協力的で、赤ちゃんのお世話をできる家族がいること」などを定め、それらの項目に基づいて支援対象者を決定しています。

女の子への最初のヒアリングと毎月のモニタリングは、原則1名の女性スタッフが行っています。また、女の子が、元いた学校での、いじめや陰口を懸念し新しい学校への転入を希望する場合、1名の男性スタッフが学校関係者との連携を取り、復学登録を行います。

プログラムの契約は1月1日~6月30日と7月1日~12月31日の2度の更新手続きがあり、更新する1か月前までの毎月のモニタリングによって、今後のサポートの有無を決定していきます。契約は、女の子が通学している間に赤ちゃんのお世話をする家族1名も同時に行います。

毎月のモニタリングでは、女の子の世帯の経済状況、給付金の使途、赤ちゃんの健康状態、学校でのいじめや陰口がないか等、約30の質問項目によって詳細に経過を観察していきます。

通常3月・5月・6月・7月・8月・9月・10月・11月・1月・2月は、女の子が赤ちゃんと一緒に現地オフィスに訪問しモニタリング・現金給付を行い、長期休みの重なる4月と12月には、現地スタッフが受益者宅に家庭訪問を実施します。

このように現地スタッフが、10代のシングルマザーとその家族へ綿密に毎月のモニタリングを実施し、支援契約・契約更新を行っています。

 6.給付金の使用用途

給付金の使用用途は、女の子の教育費と赤ちゃんの養育費に限定して使用され、返済の必要は原則ありません。

6名の受益者の奨学金給付の使用例

初月にはバッグ・制服・文房具代・給食費といった学用品等の復学準備金、給付3か月後からは赤ちゃんの養育費と放課後学習(有料)に主に利用される傾向にあります。

奨学金で購入した学用品

 7.今後の活動計画

今後は、シングルマザーの女の子の復学支援に努めるとともに、同意のない性交渉による望まない妊娠の根本的解決のために、ケネマ県の現地NGO「Global Village Network」と協力し、中学校・高校での男子生徒へ向けた性教育プログラム「ハズバンドスクール」の継続的な開校を計画しています。

来年度末までに、ケネマ県の10校1,200名の男子中高生に、ハズバンドスクールを届けることを目指しています。

男子中高生への性教育プログラム「ハズバンドスクール」開校の様子

ハズバンドスクール開校の背景には、「学校に性教育カリキュラムがないこと」と「高額なコンドームが購入できないこと」の二つの課題があります。

男子中高生への性教育プログラム 「ハズバンドスクール」では、女性の権利・健康、正しい避妊方法、性加害の処罰の内容、性被害にあった女の子の保護・治療・アフターケア・訴訟までのサイクル、10の性的同意のパターンについて理解することを目的としています。一人一冊テキストを配布し、一人当たり1つのコンドームを配布し、コンドームの正しい装着方法も学びます。

10代の女の子の若年妊娠の理由は、2010年代まで「児童婚」が主な要因でしたが、男女の教育格差が徐々に是正されていくにつれ、その主流要因は近年変化しつつあります。教育格差の是正により、中学校に進学できる女の子の割合が増加し、近年では親元を離れて都市部で寮生活をする女生徒が増えました。都市部でボーイフレンドができるも、コンドームへのアクセスの難しさ、性的同意の難しさ、性教育の知識不足などにより妊娠にいたります。男性側も複数の若者と関係を持ってるため、経済的責任を果たさない・果たせないケースがほとんどです。

また学校での男性教師による性暴力が起きているという現状もあります。 男性側が避妊の方法を学ばず、子育ての責任を取らず、女性だけがスティグマとされる社会を変えていくために、ケネマ県全体でのハズバンドスクールの開校を進めてまいります。

すでに政府機関である「Marie Stop」がコミュニティベースで、性教育に関する啓蒙活動を担っていますが、確実にそして幅広く性教育を届けるために、NPO法人アラジでは「学校機関」での啓蒙活動に努め、いずれは行政との連携・協働等も視野にいれ活動を続けてまいります。

若年妊娠をした10代の女の子が再び教育の機会を獲得し、経済的な自立と夢の実現が可能となるよう、NPO法人アラジはこれからも支援活動を継続していきます。

2021年12月以降も、皆さまの温かいご支援とお力添え、どうぞよろしくお願いいたします。

以上

(参考文献)

特定非営利活動法人Alazi Dream Project

編集:栗田紗希

文責:下里夢美