本中間報告書では、NPO法人アラジが「ポートロコ県マケレ村」で実施する「農村部小学校定額給付支援」の、2021年4月~2021年11月中旬までの約半年間の活動報告をまとめています。
※NPO法人アラジが使用する子どもの写真は、NPO法人アラジが定めるチャイルドセーフガーディングポリシーに遵守し、書面にて子どもたちの写真撮影の許可および広報媒体への使用の許可を得ています。
1.NPO法人アラジとは
NPO法人アラジ(正式名称:特定非営利活動法人Alazi Dream Project)は、西アフリカのシエラレオネ共和国で、教育を受け続けることが困難な貧困家庭の子どもに、教育支援を提供する国際協力NGOです。
2014年に代表理事の下里夢美(しもさとゆめみ)により任意団体として創設、2017年よりNPO法人化しました。事業スローガンに「最も困難な状況に陥る子どもと貧困家庭へ私たちが、最初のチャンスを」、ビジョンに「誰もが夢へ向かって努力できる社会の実現へ」をそれぞれ掲げ、日本とシエラレオネ共和国で活動を行っています。4年間で延べ1,100人の貧困家庭の子どもに、教育と就労の機会を提供してきました。
NPO法人設立から5期目を迎えた現在では、常勤スタッフ(有給)1名、非常勤スタッフ(有給)3名、登録ボランティア約80名、インターン生述べ15名、月額寄付サポーター登録者数207名となり、多くの市民の皆さまのご理解とご支援をいただきながら、活動を継続しています。
事業地シエラレオネでは現在、2つの事業地(首都フリータウン・ケネマ県)の事務所に、現地スタッフが3名在籍しています。
2.シエラレオネ共和国とは
西アフリカの西部に位置するシエラレオネ共和国は、18世紀に奴隷貿易の産地として発展、奴隷制から解放された黒人たちの移住地として、1808年にイギリスの植民地を得て、1961年にイギリスから独立しました。
現在の人口は約790.7万人(2020年,世界銀行)で、国土面積は71,740 km²です。首都は、奴隷解放の意味を込めてフリータウン(Freetown)と名付けられています。公用語は英語で、ティムニ族、メンデ族、フラニ族など、多数の民族の共通語としてのクリオ語は、国民の9割以上に使用されています。宗教の内訳は、イスラム教6割、キリスト教3割、その他の土着宗教が1割となっています。日本とは距離にして約14,000km離れており、航空時間は約30時間と、物理的に距離が遠く、心理的・経済的交流が非常に限られた地域となっています。
現在、シエラレオネ共和国は後発開発途上国(*1 LDC : Least Developed Country)47か国に属し、SDGs(Sustainable Development Goals = 持続可能な開発目標)達成年の2030年以降も、後発開発途上国に残り続けるだろうと予測されています。1991年から2002年までの長きに渡る政府軍と反政府軍(RUF)との内戦では、多くの死者や難民を生み出すと同時に経済・教育・行政など様々な面に甚大な負の影響を及ぼしました。2016年のエボラ禍、2018年の都市部の土砂災害(1,000名以上が死亡)等も、同国の経済発展に大きな影響を与えています。
*1 後発開発途上国(LDC:Least Developed Country)
国連開発計画委員会(CDP)が認定した基準に基づき、国連経済社会理事会の審議を経て、国連総会の決議により認定された特に開発の遅れた国々。3年に一度LDCリストの見直しが行われる。規準は以下の通りである
(1)一人あたりGNI(3年間平均):1,018米ドル以下(2)HAI(Human Assets Index):人的資源開発の程度を表すためにCDPが設定した指標で、栄養不足人口の割合、5歳以下乳幼児死亡率、妊産婦死亡率、中等教育就学率、成人識字率を指標化したもの。(3)EVI(Economic Vulnerability Index):外的ショックからの経済的脆弱性を表すためにCDPが設定した指標。人口規模、地理的要素、経済構造、環境、貿易のショック、自然災害のショックから構成。(参考:外務省HP)
3.これまでの活動
現在NPO法人アラジでは「農村部小学校定額給付支援」「都市部奨学金給付支援」「10代のシングルマザー復学支援」の主に3つの支援事業を、首都フリータウン、ケネマ県、ポートロコ県の3つの事業地で実施しています。
シエラレオネ共和国において、子どもがより経済的に脆弱な状況に陥る要因としては、主に3つのパターンがあげられます。1つは事故・病気・災害等で子どもが両親を失っており、親戚宅で里子として過ごしている場合、次に、子どもの保護者が初等教育を完了していないひとり親世帯で頼れる親戚が不在の場合、最後に学校設備が不十分な農村部で生活している場合等が考えられます。生きるため、また、学校に通い続けるために、月100時間以上の過度な家事、農業、兄弟の育児、売り歩き、物乞い、最悪の場合にはセックスワーク等の児童労働に従事する場合があり、大きな社会問題となっています。
両親から明らかな虐待を受けている場合や、ストリートチルドレン、災害・緊急時の保護・サポートはより充実していますが、上記にあげた「家族と過ごす子どもの貧困」は目に見えにくく、義務教育課程(中学校3年生まで)において、留年や退学を繰り返す要因にもなり、解決がより困難です。
現在NPO法人アラジでは、そうした「家族と過ごす子どもの貧困」の諸問題の根本要因を改善するべく、上記に掲げた3つの支援事業と啓発活動を実施しています。それぞれの事業が、児童労働や子育てなど、様々な理由で教育を受けることが困難な子どもの家庭に、教育機会を提供し、長い目でみた教育の成果を目指すものです。
活動の実績として、奨学金給付支援事業においては教育費の補助により受益者の留年率0%を達成、また小学校定額給付支援においては、未認証の小学校への初期設備の整備を担当しこれまで1校を現地行政へ引き継ぎました。現在、430名の子どもが毎月NPO法人アラジのサポートを受けながら、学校に復学しています。
4.シエラレオネの教育の現状
シエラレオネは日本と同じ、小学校6年制・中学校3年制・高校3年制・大学4年制で、保護者の義務教育期間を中学校3年生までと定めています。
2020年のAnnual School Censusによるとシエラレオネには、保育園から高校まで全国11,168の学校があり、その半数以上(55%)がミッションスクール(宗教団体が伝道のために設立し、主に寄付金で運営が行われている学校)です。
小学校総就学率では女子が140%、 男子が137%*2となる一方で、完了率は87.19%となっています。また、中学校総就学率では女子が76.7%、男子が77%となり、義務教育過程の完了率は男女平均72%となっています。(参考:2020 Annual School Census)
小学校時点では女子の就学が多い傾向があるものの、中学校・高校・大学進学につれ、男子の就学率が女子を上回る男女の教育格差がみられます。SDGs目標4.1「2030年までに、すべての少女と少年が、適切で効果的な学習成果をもたらす、無償かつ公正で質の高い初等教育・中等教育を修了できるようにする。」の目標はいまだ達成には厳しい状況です。
*2 総就学率の高さは、標準年齢に児童が属するかどうかにかかわらず、就学度合いが高いことを意味します。総就学率は、公式の就学年齢から外れた生徒が含まれる場合や、留年、復学によって、100%を超える場合があります。
中間報告(2021年4月~2021年10月)
1.事業概要
「農村部小学校定額給付支援」は、農村部の教育設備が不十分な学校へ、毎月の定額現金給付支援を行う活動です。現在 、毎月ポートロコ県のマケレ小学校の学校運営者(校長先生)に対して、71,500円(6,500,000SLL*1リオン=0.011円で算出)の現金給付を行っています。
ポートロコ県の3つの小学校に、教科書やノートなどの教材物資の提供支援を行ってきました。しかし、学校に通う子どもたちが適切な教育機会を継続的に獲得できるよう、現物を与える支援ではなく、より自立した学校運営を学校運営者自らが行うことを目指して、2020年11月より、毎月の現金の定額給付という形でサポートを実施しています。
2.対象事業地・受益者
学校名:マケレ小学校(正式名称は非公開)
所在地:ポートロコ県・マケレ村
児童数:前年度284名→361名(女子169名/男子192名)
教員:8名(数学、英語、アラビア語、社会、理科、保健体育、等)
支援実施の際には、毎月2回、首都フリータウン事務局のスタッフ1名が車(約2時間)でマケレ小学校まで訪問しています。
3.支援の際の合意事項
小学校定額給付支援を実施するにあたっては、小学校運営者と、NPO法人アラジで以下の合意事項を締結しています。
- NPO法人アラジの現地スタッフによる、月に2回の学校訪問における、経費支出会計報告と子どもたちのインタビューなどの経過観察に応じること。
- 子どもへの体罰を行わないこと。
- 学校の登校日には、毎日人数分の給食を家庭の経済状況による差別をせず、全員に提供すること。
- 当支援事業は、ポートロコ県管轄の教育省へ将来的には引き継がれることを目指し、政府公立小学校として認可されるまでの初期設備および給食費・教員給与等の補助的なサポートとする。
4.給付金の使用用途
毎月の給付金は、在籍する子どもたちへの教材、机・椅子・黒板・トイレ・水道などの学校設備費や修理費のための貯蓄金、教員給与などに使用されます。
学校給食には、学校で調理されたパフケーキやジンジャージュースが毎日提供されています。貧困により1日1食しかご飯が食べられない子どもも、学校給食によってお腹を満たすことができており、子どもたちの栄養改善にも寄与しています。
2021年10月には学校敷地内のトイレ建設が完了しました。これまで学校の敷地内にトイレがなかったため、子どもたちは頻繁に家まで走って帰ったり、茂みの中で用を足したり、という状況でした。今回はトイレ建設を行い、3つのトイレを設置、安全面・衛生面においても大きく寄与しました。
マケレ小学校においては、教室2クラスがもともと設置されていましたが、長椅子(3人がけ)24点、黒板5点、飲料水バケツ2点、トイレ3つは、NPO法人アラジの支援で設置いたしました。
5.収支報告
毎月の給付金は、約半分が学校給食に使用されています。9月の会計報告を例に毎月の支出報告の傾向を下記図に表しています。9月には、50%を給食費に、40.6%をトイレ建設費に、5.5%を学校設備費(黒板)に、3.8%を教員給与に使用しました。給付金の使用用途は学校の長期休み期間や、その時々のニーズによって異なります。
6.毎月の経過観察
アラジでは、月に2回の現地スタッフによる学校訪問と学校運営者、子どもたちへの経過観察を行っています。給付金の使用計画や、学校運営の改善点、地域を管轄する教育省との連携等を行っています。
学校運営者への経過観察項目
- 収支報告書のチェック
- 会計予算の計画チェック
- 机や椅子、黒板や水道設備など学校設備の保有数
- 在籍児童の人数と男女比
- 児童の授業出席率(平均9割)
- 勤務する教員の情報(保有する教員免許、給与額など)
- 毎日提供される昼食の内容
- 中学校受験者数
- 中学校合格者数
等
また子どもたちの学校生活を正確に把握するために、子どもたちを対象とした経過観察も同時に実施しています。この経過観察は毎月固定された7名の児童と、実施日ごとにランダムに選ばれる3名の子どもの計10名を対象に実施しています。
子どもへの経過観察項目
- 学業の進捗状況
- 給食が毎日提供されているか
- 提供される給食の内容は何か
- 児童間のいじめや先生からの体罰の有無
- 先生の子どもに対する言動(金銭の要求や外見に関する発言がないか)
- 通常の授業が適切に実施されているか
- 性教育の実施有無
- 子どもたちの将来の夢
等
これらの学校運営者、子どもたちを対象とした経過観察によって、給付金が適切に使用されているかを定期的な調査は、次年度の活動計画に反映されています。
7.中学校受験と合格率
シエラレオネの子どもたちは、中学校進学時に西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)が共同で策定する中学進級試験:NPSE(National Primary School Examination)への合格が必須となっています。
今年度は2021年5月28日に開催され、過去最多となる約16万人が受験しました。試験では、小学校卒業時点までの学習到達度を測るために、国語(Verbal Aptitude)・数学(Mathematics)・英語(English Language)・一般教養(General Paper)・数的適正(Quantitative Aptitude)の5科目で構成されています。今年度マケレ小学校からは10名(前年比+7名)の児童が中学校進学試験に合格し、中学校に進学予定です。
※シエラレオネ政府はユニセフと協働で全国に教科書を配布しています。しかし行政のサポートは教科書のみなため、NPO法人アラジでは、その他の必要な教育サポートを実施しています。
8.活動における課題点
当活動が今後解決すべき課題点が大きく4点あげられています。
課題1:就学児童の増加
マケレ小学校に入学する児童数が、前年度284名から21年度11月時点で361名となり、急増しています。そのため、教室や机、椅子などの備品が不足しています。入学する子どもが増加する要因としては、給食支援を行っていること、近隣のンボロ小学校が、老朽化により閉鎖されてしまったことなどがあげられます。
ンボロ小学校はかつてマケレ小学校に隣接する学校でしたが、2016年の校舎倒壊、2020年の教員の不祥事により運営が立ち行かなくなってしまいました。これを理由にンボロ小学校に通っていた子どもがマケレ小学校に転校したため、人数の増加に繋がりました。子どもたちが適切な教育機会を得るために、学校設備の強化が喫緊の課題となっています。
課題2:備品の盗難
2021年に入り、教室に設置されていた机が1点盗まれるという事態が発生しました。今後、備品の盗難被害が再び発生しないためにも、設備強化等対策を講じる必要があるため、学校運営者とともに計画予定です。
課題3:いじめ・体罰の防止
毎月の子どもへのヒアリングにより、いじめや先生の体罰などが存在していることを確認しています。毎月の経過観察では、固定された7名の子どもとランダムに選ばれた3名の子どもに、学校生活に関する詳細なアンケート調査を行っています。調査結果からは、いじわるなこと(主に外見に関する侮辱)を言われたり、望まないあだ名をつけられたりする事例が毎月みられます。
また同時に先生の体罰も依然として起こっていることも、調査結果から判明しています。よりよい学習環境の確保のためにも、先生への研修やいじめの防止措置等、適切な対策を検討する必要性があると考えています。
課題4:性教育の拡充
マケレ小学校では、性教育が充分になされていません。望まない若年妊娠や性暴力を防ぎ、子どもの権利を守るためにも、性教育の提供は不可欠であると考えます。現在NPO法人アラジでは男子中高生向けの性教育授業(ハズバンドスクール)の開催を計画しており、マケレ小学校の子ども達に対しても、来年度中に実施予定です。
ハズバンドスクールでは、女性の権利・生理や出産などのリプロダクティブヘルス・性加害を起こした場合や示談した場合の刑罰、女性が被害者となった場合の適切な連絡機関と、治療・アフターケア・刑事裁判のサイクル、10パターンの性的同意について学びます。
9.チャイルドセーフガーディングポリシー
今年度からNPO法人アラジではチャイルドセーフガーディングポリシーを新たに策定しています。このポリシーは、受益者である子どもの個人情報と人権を保護することにより、あらゆる関係者からの性的搾取・性加害を防止するためのガイドラインです。新たに策定されたこのポリシーでは、全ての関係者が、子どもの情報を外部に公開する際には、名前・居住地・学校正式名称・誕生日などの個人情報を、公開してはならないことが定められています。
また、現地活動の際には、同性の子どもへのヒアリングは、できる限り同性のスタッフが行うことや、支援者が現地に渡航する際の注意点なども明記しております。このポリシーをスタッフ一同が遵守し、万が一問題が発生した際には、すみやかに警察(Family Support Unit)と連携できるよう、体制を整備しました。
10.今後の活動計画
当小学校定額給付支援事業においては、引き続き周辺地域の子どもの入学を受け入れるとともに、学校設備の拡充・強化に務めます。
現在の活動実績を基に、事業規模を順次拡大させていく予定であり、最終的にはポートロコ県の教育省へ公立学校として引き継ぎを行うことが本活動の掲げるゴールとなっています。
子どもたちの産まれた環境に関わらず、継続した学びの機会を提供するべく、アラジはこれからも支援活動を継続していきます。
2021年11月以降も、皆さまの温かいご支援とお力添え、どうぞよろしくお願いいたします。
以上
特定非営利活動法人Alazi Dream Project
編集:江田飛翔
文責:下里夢美